思い出

治は高校生のときには演劇部に所属していた。特に演劇に興味があった訳ではないが、「普通演劇部なんか入んないよね」という自分の気持ちの裏をかいて演劇部に入ったように記憶している。実は演劇部には女の子が多かったのでなかなか楽しかったのだが、今回はその時のお話である。

部活の練習の最中に何人かで飲み物を買いに言ったことがあった。どんなメンバーだったか、今となってはその中にあまりかわいくない女の子がいたことしかはっきりとは覚えていない。

自動販売機の前で、「どれにするー?」などと言って皆で自分の飲みたい物を考えていると、その女の子は「私これにするー」といって、かわいらしいヨーロッパの田舎のような風景が缶に描かれた「コーヒー風景」という商品を買うことに決めたようだった。治はこのとき、その女の子の選択について何も言葉を発することなく、紳士的なような表情をしていたが、心の中では「なんでお前がコーヒー風景とか言って可愛げなの買ったりするワケ?」的なことを考えていたのだ。

そんな間にその女の子はコインを投入してコーヒー風景のボタンを押し、ガタんと出てきた商品を取り出した。

そのとき「えーーーーっ」と、そのあまりかわいくない女の子が声を上げたのを治は聞いた。「えーーーー、なにこれーーー?」そんなことを言い続けるその女の子の手には「ガブ飲みコーヒー」と書かれた350ml缶が握られていた。

治は心の中では「お似合いだぜ」と思いながら、紳士的にちょっと微笑んだ。