Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s

少し前、仕事の暇な時に働いてるふりをしながら富田 倫生氏の「パソコン創世記」という文章を青空文庫で読んだ。(http://www.aozora.gr.jp/cards/000055/card365.html) 日米でのパーソナルコンピューターの黎明期〜windows3.1前夜までを丹念に追った労作だ。同時多発的に世界で起こりつつあったことを書いているので、それぞれの章で時間の進み方が違ったりするところが多少わかりにくかったりするものの作者の興奮がダイレクトに伝わってくる文章だ。今では悪い冗談のようになってしまった西和彦というのはたいした人物だったんだなあとか、なんだったんだろうあれはと思い続けていたNECのPC-100にはそういう背景があったのかなどと自分が無知だっただけなのかもしれないけど、知らなかったことがいろいろ書いてあったので面白かった。
この中でAppleの設立のことについても書かれているけど、スティーブ・ジョブズの役割というのはあまり好意的には書かれていないように思える。彼には高度な技術的バックグラウンドがないから?ビジョンなんてハッタリにすぎないから?結局この文章の未来に当たる現在においてスティーブ・ジョブズの「ビジョン」はなかなかの成功を収め続けている。
マック誕生20年:「マックの父」は本当にジョブズCEOか?:http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20040114205.html
アップル社の同窓会、思い出話はジョブズCEOの悪口:http://hotwired.goo.ne.jp/news/culture/story/20030917205.html

これらの記事に現れるスティーブ・ジョブズのイメージはまさにエゴの塊だ。そんな人がスタンフォード大学の卒業式で言う、

君たちの時間は限られている。だから自分以外の他の誰かの人生を生きて無駄にする暇なんかない。ドグマという罠に、絡め取られてはいけない。それは他の人たちの考え方が生んだ結果とともに生きていくということだからね。その他大勢の意見の雑音に自分の内なる声、心、直感を掻き消されないことです。自分の内なる声、心、直感というのは、どうしたわけか君が本当になりたいことが何か、もうとっくの昔に知っているんだ。だからそれ以外のことは全て、二の次でいい。

Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma - which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of other's opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.

というのは、そのあとに「そうやって生きてみてうまくいくかどうかはわかんないけどね、僕の場合はうまくいったけど」とでも太字で注釈をつけておかないと特に日本ではニートな引きこもりを増大させる方向で作用してしまいそうだ。
このスピーチに関するこの記事(Steve Jobsのスピーチから読み取る自分戦略:http://jibun.atmarkit.co.jp/ljibun01/column/horiuchi/horiuchi21.html)で引用されているNYtimesのコラムのように

――長年、学位授与式のスピーチでは、卒業生に温かくも感傷的な、同じようなアドバイスが贈られてきた。本当に好きなことをせよと。
卒業生の反応も同じだった。注意深く耳を傾け、まじめにうなずきながら、卒業すると会計士になる。

という現実性というのは平凡な人間にはやはり必要なのだとも思う。平凡な人生が無価値なわけではない。


とはいいつつも最初にこのスピーチを読んだときはそれなりに感動したのだ。Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. いい言葉だ。「いつかは!」と思つつも美しき平凡な日常を送るのだ。

と思ったことをblogmapで「スティーブ・ジョブズのスピーチ」という記事が上位に来ていたので思い出しました。
スピーチの原文:'You've got to find what you love,' Jobs says